集団のまとめ役として活躍するのがリーダーです。そのリーダーがリーダーシップを発揮することで、スムーズな目的達成につながります。今回は、リーダーシップとは何かを説明します。リーダーシップ論の概要や、ビジネスで必要なリーダーシップについて知っておきましょう。
リーダーシップとは?
チームでビジネスを遂行する場面では、リーダーシップが必要とされます。まずは、リーダーシップとは何か、定義について説明します。
リーダーシップの定義
リーダーシップについては、世界中で長年研究が行われています。ただし、リーダーシップの統一された定義は存在しません。一般的には「リーダーが組織や集団の他のメンバーに対し、目標達成のために努力するよう影響を与えること」をリーダーシップといいます。
リーダーとフォロワー
リーダーとは、目標達成のためにチームを先導する存在です。組織全体を率いる役割として任命される場合もあれば、自然発生的にリーダーとなる場合もあります。リーダーシップは、フォロワーが認知することで成立します。フォロワーとは、リーダーの周りにいてリーダーを支える存在です。
リーダーシップとマネジメントの違い
リーダーシップとよく似た言葉に、マネジメントがあります。「マネジメントの父」とも呼ばれる経営学者のP.F.ドラッカーは、マネジメントについて「組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関」と定義しています。
リーダーシップはビジョンや方向性を重視
リーダーシップは、目標達成のためにチームを引っ張っていく能力を意味します。これに対しマネジメントは、チームに成果をあげさせるための手法を考えたり、組織を管理したりする能力です。リーダーシップは「ビジョンや目的、方向性を重視するもの」マネジメントは「具体的な手法に注目するもの」という違いがあります。
リーダーシップ研究の歴史
リーダーシップについては古くから学問として研究されており、何種類もの考え方があります。20世紀前半までのリーダーシップ研究は、リーダーが持って生まれた特性(資質)に注目する「資質アプローチ」が主流でした。
その後、20世紀中盤から登場したのがリーダーの行動に着目した「行動アプローチ」です。近年はその他にも注目すべきアプローチが数多く登場しています。
リーダーシップ論の種類と変遷について
ここからは、リーダーシップ論の種類や考え方の変遷について説明します。リーダーシップ研究の大まかな流れや、代表的なアプローチを知っておきましょう。
資質アプローチ
「あの人はリーダー向きだ」「自分はリーダーの器ではない」などと、よく言われます。リーダーになれる人となれない人は、最初から決まっていると感じている人も多いでしょう。
このように、リーダーシップは個人の資質によって決まるとする考え方が資質アプローチ(資質論)です。初期のリーダーシップ論は、資質アプローチにもとづくものでした。
リーダーに必要な特性とは
資質アプローチでは、以下の要素が当初リーダーシップと関係があるとされていました。
独創性
人気
社交性
判断力
積極性
よりよくなりたいと思う気質
ユーモア
協力性
快活さ
運動能力
その後、決定力、忍耐力、自信、自我の強さもリーダーシップにつながるとされました。
行動アプローチ
資質アプローチが行き詰まったことで登場したのが、行動アプローチ(行動論)です。行動アプローチでは「優れたリーダーは何をしているか」に着目した研究が行われました。持って生まれた資質は変えられませんが、行動は見て学べます。研究成果をリーダー育成に活かす目的で、行動アプローチによる研究は盛んになりました。
リーダーシップを評価する2つの側面
行動アプローチの代表的な研究には、以下のようなものがあります。
ミシガン大学の研究者らによるミシガン研究
オハイオ州立大学の研究者らによるオハイオ研究
日本の研究者が発表したPM理論 など
行動アプローチでは、課題解決と人間関係の2つの側面からリーダーシップを評価する考え方が主流です。
PM理論とは
日本発のリーダーシップ論であるPM理論は、社会心理学者の三隅二不二氏によって提唱されました。PM理論によると、リーダーシップ行動はP(Performance=目標達成)機能とM(Maintenance=集団維持)機能から成るとされています。
それぞれ、次のような機能です。
P(目標達成)機能 | 課題解決の方向を示し、それに向けてメンバーに圧力をかける機能 |
M(集団維持)機能 | メンバーの間に生じる緊張を緩和し、良好な人間関係を促進させる機能 |
PM理論では、P機能、M機能の高さによって、リーダーシップを4つのタイプに分類します。
筆者作成
PM理論の4つのタイプ
理想的なリーダーは、PM型です。一方、pm型は未熟なリーダーといえます。PM理論にもとづきP機能やM機能を強化すれば、理想的なリーダーの育成につながります。
状況アプローチ
行動アプローチに異議を唱える形で提唱されたのが、状況アプローチと呼ばれる考え方です。状況アプローチの発端となったのが、ワシントン大学のF.フィードラー元教授によって提唱されたコンティンジェンシー理論です。
コンティンジェンシー理論とは
コンティンジェンシー理論では「リーダーの行動に影響を与えるのは状況好意性である」と捉えます。状況好意性とは、次の3つの要素で構成されます。
リーダーとフォロワーの関係
タスクの構造化の程度
リーダーの地位にもとづくパワーの程度
3つの要素の組み合わせによって、リーダーの状況好意性が決まります。コンティンジェンシー理論では、状況好意性が高いまたは低いときには課題解決に、状況好意性が中程度のときには人間関係に軸足を置いたリーダーシップが有効とされています。
カリスマ的リーダーシップ
資質、行動、状況という形で発展してきたリーダーシップ論は、1970年代後半に転機を迎えました。それまではフォロワーをどう動かすかという点が重視されていましたが、新たに組織変革という観点が重視されるようになったのです。組織変革につながるリーダーシップ論の1つが、カリスマ的リーダーシップ論です。
カリスマとは
カリスマの概念を社会学の分野に取り入れたのは、ドイツの社会学者のM.ウェーバーです。ウェーバーは、カリスマとは「特定の人物が有する非日常的な資質」と捉えました。その後、ペンシルベニア大学のR.J.ハウス元教授は「カリスマは先天的な特性ではなく、フォロワーにカリスマと認知されることによって、リーダーはカリスマとなり得る」という見解を示しました。カリスマについてはいまだ統一された見解はなく、議論が続いています。
変革型リーダーシップ
カリスマ的リーダーシップ論と同時期に登場したのが、変革型リーダーシップ論です。組織に大きな変化をもたらすリーダーシップとは何かについて、研究が行われました。変革型リーダーシップに関して、多くの学者はリーダーの掲げるビジョンの重要性を説いています。
リーダーシップに関連する近年注目のアプローチ
リーダーシップについては、今もなお議論が続いています。ここからは、リーダーシップ論に関連して、近年注目されている考え方をいくつか紹介します。
フォロワーシップ
リーダーシップとは、目標達成のためのリーダーのふるまいに注目した考え方です。これに対し、フォロワーがどう行動すべきかに着目した概念がフォロワーシップです。チームを活性化するためには、リーダーの周りにいるフォロワーの役割も重要と考えられるようになったのです。
カーネギーメロン大学のR.ケリー教授は、フォロワーシップの2大特性を「批判的思考」と「積極的関与」の2つと分析しました。2つの特性の程度によって、フォロワーシップは次の5つのタイプに分類されます。
模範的フォロワー
批判的思考、積極的関与の両方を満たしているフォロワーです。組織の非効率な壁にも立ち向かい、目的に対して積極的に取り組んで行きます。
孤立型フォロワー
批判的思考を持っているものの、組織に対しては消極的関与を示すフォロワーです。組織の中では一匹狼となります。
順応型フォロワー
組織に積極的に関与するけれど、無批判で依存的なフォロワーです。リーダーの決定や指示には従順ですが、自分の考えは持っていません。
実務型フォロワー
適度な批判的思考、適度な関与を示すフォロワーです。自分に割り当てられた仕事は確実にこなし、それ以外については積極的に関与しません。
消極的フォロワー
依存的かつ消極的関与を示すフォロワーです。一見すると無気力に見えますが、フォロワーシップのスキルをまだ身につけていない段階ともいえます。
サーバントリーダーシップ
サーバント(servant)とは「召使い」や「しもべ」の意味です。サーバントリーダーシップとは「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考え方にもとづくリーダーシップ論です。アメリカの実業家R.K.グリーンリーフによって提唱されました。
サーバントリーダーシップが注目される理由
デジタル技術の進歩に伴い、ビジネス環境は目まぐるしく変化しています。リーダー1人がメンバーに指示を与える従来の支配型リーダーシップでは、変化のスピードについていけません。これからの時代、リーダーは個々のメンバーの資質を理解し、各人が能力を発揮できる環境を作ることが求められます。
サーバントリーダーシップは、こうした時代のニーズに合致するものです。
エルダーシップ
エルダーシップとは、プロセス指向心理学の創始者であるA.ミンデルが提唱する新しいリーダーシップの形です。エルダー(elder)とは「長老」の意味です。
エルダーシップについては「対立の炎を避けることも炎に燃え尽くされることもなく、ただ炎の中に座して自分と人々の気づきを探求するあり方」と定義されています。
エルダーとはどんな人?
エルダーは、その場にいるだけで、その人の存在が他の人たちに安心感や希望を与えるような存在です。エルダーシップとは、基本的になるがままに任せるもので、老荘思想にも通じる概念です。
エルダーシップを育めば、自身の内面が成長すると同時に、周囲への影響力も高まります。
物事を自然の流れに任せる
リーダーは行動するものですが、エルダーは物事を自然の流れに任せます。自然には物事を解決する方法が備わっているためです。リーダーとエルダーの違いとしては、次のような点があります。
リーダーは自分が正直であろうと努力するが、エルダーはすべての中にある真実を示そうとする
リーダーは賢くあろうとするが、エルダーは自分自身の考えを持たず、自然の出来事に従う
リーダーは考える時間を必要とするが、エルダーは何が起こっているかに一瞬で気づく
リーダーは戦略を必要とするが、エルダーはその瞬間から学ぶ
参考文献:「対立の炎にとどまる」(アーノルド・ミンデル著、松村憲・西田徹訳、英治出版発行)
新しい時代のリーダーに必要な3つのスキルとは?
リーダーシップ論には何種類もあり、さまざまな考え方があることを説明してきました。リーダーシップ論や各種のアプローチをふまえ、新しい時代のリーダーにはどんなスキルが必要かを考えてみます。
傾聴力・共感力
リーダーはチームのメンバーとコミュニケーションをとりながら、ビジネスを遂行しなければなりません。メンバーとうまく意思疎通ができなければ信頼が得られず、リーダーシップを発揮できないでしょう。メンバーの信頼を得るためには、傾聴力や共感力を意識することが重要です。
異なる価値観も受け入れる
今の時代、人々の価値観は多様化しています。メンバーの個性を活かすためには、自分と異なる価値観についてもしっかり話を聞き、受け入れる姿勢が必要です。きちんと話を聞くことでメンバーからの信頼を得られ、スムーズに目的を遂行できるでしょう。
ビジョンを描く能力
リーダーはプロジェクトを遂行するにあたって、目標を設定しなければなりません。そのうえで、メンバーに対し明確なビジョンを示すことが大切です。これからのリーダーには、ビジョンを描くスキルが求められるでしょう。
メンバーのモチベーション向上につながる
リーダーがビジョンを示せば、メンバーのモチベーションが向上します。主体的に業務を行うメンバーが増えれば、社内の他のチームへも良い影響を与え、会社全体が活性化するでしょう。
学び探求する能力
リーダーは世の中の動きに敏感になると同時に、さまざまな知識を身につけなければなりません。常に学び続ける姿勢が必要です。伝統的なやり方にとらわれず、より良い方法を見つけ出すスキルも求められるでしょう。
リーダーシップを高める勉強も必要
リーダーシップがうまく発揮できないことで悩んでしまうかもしれません。リーダーシップに関する情報はたくさんあります。リーダーシップに関する本を読んだり、リーダーシップを高めるための講座を受講したりすることも有効でしょう。
まとめ
チームで目的を達成するために、リーダーシップは重要です。リーダーシップとは何かを知っておくと、ビジネスの場面で役立ちます。リーダーシップにはさまざまな種類のアプローチがあるので、参考にしてみてください。